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海月、俳諧の海に想ふ

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必要以上の努力をしない侭生きて来た。中学時代寝ても覚めても慕い続けた先輩の居る高校に入る為には「本気になって頑張れば何とかなるかも知れない」と言われ、慕い続けるのも面倒になって頑張らなかった口である。

さて、そうやって騙し騙し生きて来て、多分これからも騙し騙し生きて行くのだろうが、最近困った事になった。

俳諧である。

何事も適当にそれなりに必要なだけ身につけて来たミニマリストが余りに日本語のオカシクなって来た事に気が付いて、リハビリとして始めた俳諧。季語の海に見惚れて素っ裸でざぶんと飛び込んだのは良いが、波の所為か気が付くと浜辺が少し遠くなっている。慌てて立とうとすると、海底に足が付かない。

これはとんでも無い事になってしまった。沖は限りなく続き、浜辺に戻れる程泳力も無い。まぁ、綺麗な貝だこと!なんて喜んでばかり居られ無いのだ。貝の数だけ、その背景と歴史がある。魚が日本語文化と言う背鰭を光らせて、すっと遠くへ行ってしまう。先人達の残した膨大な歌・句・詩・散文は海の水そのものだ。その中に居る様で、それらを全く知らない。然し、実際それらを選び抜き、これ以外には並べようも無いと言う処迄並び替えた上、たった17文字に納める事の出来る人は居るのだ!

彼等は自分の小島を持っている。泳力もあるので、海底から必要な物を拾い、遠くの島の椰子の実を抱えて自分の島に戻る事が出来る。それを眺めるぎりぎり余力を使って、私はこの海の中取り敢えず沈まない様にしている。そう、俳諧が自殺の理由になってしまっては元も子も無い。そうなる前に誰かが横を通り掛かって、ボートに載せて浜辺に運んでくれるだろう…位の呑気さも無きにしはあらずであった。

本気で手足をばたばたさせるのはもう疲れたが、方々の島から流れて来る句の調べは聴いて居たいし…と海月状態になって居た丁度その時、本当にボートが通り掛かった。ボートの主は拾い上げて下さり、暫く彼の島の近くで泳ぐ練習をしませんか?と仰って下さった。海月が咽び泣きながら、ボートの上でぺちゃりと広がっている場面を、どうか想像して頂きたい。

ずっと独学で海を泳ぎ続け、島を築き上げる人もあるだろう。私には根性が無いばかりでは無く、日本語文化と言う地盤も無いに等しい。中学時代は図書委員の文芸部だったが、好んで読んで居たのは外国の文学ばかりだった。日本文学の殆どは、行間の更に奥迄私を追って読み取って…と言って居る様に思えて、面倒だった。然し、俳句は正にそれを凝縮したものなのでは無いか?使われている単語が一文を構成するだけでは俳句とは言えない、それを醍醐味と言えばそうなのだが、数単語だけで香りと音を伴った三次元空間を築き、更にその空間は、その作り手の独自性に満ちていなければならない。然し、一見独自性に見える独り善がりでは空間は無いも同然、読み手が入れない空間ならば空間の意味を持たない…何とも恐ろしい事である。

然し、ボートに乗せて頂いた海月としては、此処で逃げ出す訳に行かないのである。乗せて下さった方へのお礼の気持が嵩じて、むきになって泳ぐ練習をして居た。一人で落ち込んだり自分に腹を立てたり、とにかくぷかぷか浮かぶ事の反動の様な状態である。そんな自分を自嘲反省していると、西欧にこの時期にしては珍しくハリケーンが上陸し、南から北迄の広範囲で53人もの犠牲者を出したと言う報が入った。

「折も折」と言う言葉がふと脳裏を過ぎった。句作を始めてから、丁度7か5で収まる言い回しにいちいち引っかかる癖が付いてしまったのだが、この時もそうだった。自分の中を嵐が暴れている、丁度そんな…

「折も折アルプス越ゆる春嵐」

だと思った。

この添削を島の主にお願いすると、「折は折」で何かが省略されているのは分かるが、それでは余りに抽象的なので、上五の再考をと指導され、ご自分でもわが事の様に考えて下さった。

そうして、二日と経たぬ内に「やっと分かりました」と言う書き出しでメールを頂き、

「雲散華アルプス越ゆる春嵐」

と言う、なんとも深く美しく立派な上五を生み出し、拙句に息吹を入れて下さったのである。

実は、この上五を授かった句を一人黙って座右に置いておこうと思って居たのだが、師を持つと言う事の有り難さをしっかり胸に刻んで置きたかったので、こうして記す事にした。

海月でも、頭を垂れる事はあるのである。

P.S. 因みに、ここで言う島の主・小川修司さんのHPはコチラ、
泳ぎの練習場・俳句再入門と言うサークルはコチラ

Tags: 恩師, 俳諧, 俳句


March 4th, 2010 |

Tags: 恩師, 俳諧, 俳句


2 Responses to “海月、俳諧の海に想ふ”

  1. 小川修司
    March 4th, 2010 at 1:04 pm

    身に余る美文を賜りましてありがとうございます。
    なんとも、それほどお褒めにあずかることでもないような気もいたしますが、ただ、ただ恐縮するばかりです。

    それと、話は少し違うのですが、先日お問い合わせいただいたアイコンの件、NGだそうです。
    なんとも融通の利かぬ話で申し訳ありません。

      小川修司拝


  2. MIU
    March 4th, 2010 at 5:35 pm

    コメントを有難うございました。
    お礼を申し上げなくてはならないのは私の方です。

    遅々とですが、心を真っ白にして学んで行きたいと想って居ります。
    どうぞ宜しくお願い致します。


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